アルツハイ

「物忘れ」と「認知症」と「MCI」について

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「最近、人の名前が出てこなくて……」

「私なんか、2階に行ったのはいいけど、何を取りにきたのか忘れちゃって」

「いやだわ、年齢のせいかしら」

「認知症だったりして、どうしよう!」

 

 よく耳にする会話だと思いませんか。あるいは、身に覚えのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 でも、このもの忘れは「良性の健忘」、老化現象のひとつですから、心配するには及びません。記憶力は20歳代をピークに、加齢とともに減退するもので、年をとると生理的なもの忘れの頻度は多くなりますが、認知症のもの忘れには発展しません。

 一方、認知症は日常生活にまで支障をきたす疾患で、一般のもの忘れとはまったくの別ものです。加齢による一般のもの忘れは、本人がもの忘れを自覚していて、例えばメモをとるなど、自分で柔軟に対処しようとしますが、認知症の場合は、もの忘れを自覚していない傾向にあります。また、前者は体験の一部を忘れ、きっかけがあれば思い出すこともあるのに対し、後者は体験のすべてを忘れる、すなわち完全に記憶が抜け落ちていることが特徴です。つまり、さっき夕食で何を食べたかを忘れているのは単なるもの忘れですが、ご飯を食べたこと自体を忘れているのが認知症です。

 

「治る認知症」と「治らない認知症」

 

認知症には「治る認知症」と「治らない認知症」があります。

治る認知症は、正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫などで、正常圧水頭症は薬だけで治すことはできませんが、手術で治療が可能です。手術は頭の中に溜まって吸収できなくなった髄液を、チューブを通して他の場所に流れるようにするシャント術といわれるものですが、手術に適した時期を過ぎてしまうと、症状の改善が大きく期待できないこともあるため、できるだけ早く受診することが重要です。慢性硬膜下血腫は、血腫が少量の場合は、自然吸収を期待して経過観察することもありますが、通常は手術をおこないます。一般的にはリスクは低く、また局所麻酔でできるので、高齢者や全身状態があまりよくない方でも、比較的軽い負担で治療が可能です。手術方法は、頭蓋骨に小さな孔を開け、硬膜と被(外膜)を切開して、チューブを通して血腫を取り除きます。経過が順調なら、術直後から症状が改善し、通常1~2週間以内に退院できます。一方、血管性認知症は、「治る」とはいえませんが、予防することができる認知症です。すでに説明した通り、血管性認知症の直接的な原因疾患の多くは、脳梗塞や脳出血です。そして、これらは動脈硬化によって引き起こされます。動脈硬化が発生する原因(危険因子)は、高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙、過度の飲酒、肥満、運動不足、ストレスなどですから、生活習慣を見直すことでそのリスクを取り除くことができます。つまり、健康的な生活習慣が、血管性認知症の予防になるのです。仮に、高血圧、高脂血症、糖尿病などを発症してしまったとしても、昔と比べて、数値のコントロールが比較的容易になっていますから、適切な治療をおこなうことにより、血管性認知症のリスクを低く抑えることができます。一方、治らない認知症には、どのようなものがあるのでしょうか。ひとつは感染によるクロイツフェルト・ヤコブ病などがあげられます。そして、もうひとつは変性性認知症です。特に、わが国でもっとも多いアルツハイマー型認知症は、不治の病として恐れられてきました。しかし、その常識は、いまや完全に覆されつつあります。他のブログでもご紹介した長谷川先生の研究によって、今、認知症医療は新たな局面を迎えているのです。これについてまた詳しくご説明していきます。

 

ボケるか、ボケないかの境目はMCI(軽度認知障害)

 認知症医療で後悔しないためには、まず予防、早期発見、正しい早期治療の3つを理解しておくことが大切です。特に大事なのは、早期発見です。症状があらわれた段階では、脳はすでに激しく損傷していますから、手遅れにならないためには「認知症予備軍」といわれるMCIという段階での発見が重要なのです。MCIとは、 Mild Cognitive Impairment=軽度認知障害のことで、まだ認知症とは呼べない「健常と認知症の中間」にあたる「グレーゾーン」の段階をいいます。記憶、決定、理由付け、実行などの認知機能のうち、ひとつの機能に問題が生じてはいるものの、日常生活にはまだ支障がない状態です。要するにボケるか、ボケないかの瀬戸際にいるのがMCIです。一般に、MCIの定義は、次の5項目とされています。

1.本人または家族(介護者)による物忘れの訴えがある。
2.客観的に記憶障害がある(新しいことを覚えられない、記憶を維持できない、思い出せない)。3.日常生活は基本的にできる。
4.全般的な認知機能は保たれている。
5.認知症ではない。

また、MCIは、記憶障害の有無、さらにその他の認知機能障害の有無と障害の数によって、次のように4タイプに分けられます。

①忘型MCI・単領域障害
②忘型MCI・多領域障害
③健忘型MCI・単領域障害
④健忘型MCI・多領域障害

健忘型MCIは、物忘れを主体とするMCI、非健忘型MCIは、失語や失行など物忘れ以外の症状を主体とするMCIで、①はアルツハイマー型認知症に、②は記憶障害アルツハイマー型認知症、血管性認知症、③は前頭側頭型認知症、④はレビー小体型認知症、血管性認知症などに移行します。もちろん、MCIの方が将来必ず、認知症になるとは限りません。放置していても正常な認知機能に回復するケースもあります。しかし、何もしなければ約半数の人が、5年間で認知症に移行するとの研究報告もあります。ちなみに記憶障害のみのMCIでは、4年後の認知症への移行は 24 %、言語・注意・視空間認知の障害のいずれかを併せ持っている人の移行率は 77 %といわれています。

 

 

「加齢によるもの忘れ」と「認知症によるもの忘れ」の違い(一例)

     
 

加齢によるもの忘れ

認知症によるもの忘れ

体験したこと

一部を忘れる
例:朝ごはんのメニュー 

すべてを忘れている
例:朝ごはんを食べたこと自体 

もの忘れの自覚

ある

ない

探し物に対して

(自分で)努力して見つけようとする

誰かが盗ったなどと、他人のせいにすることがある

日常生活への支障

ない

ある

症状の進行

極めて徐々にしか進行しない

進行する

     

出典:政府広報オンラインホームページより

 
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