ホモシステ

アルツハイマー病とホモシステイン酸のお話(その2)

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モデルマウスを使ったホモシステイン酸と記憶の回復の効果検証

前回のお話に続き、アルツハイマー病のモデルマウスの記憶障害に、果たしてホモシステイン酸が関係するのか、という実験をします。

アルツハイマー病のモデルマウスは、アミロイドβになる前のタンパク質、それからプレセニリン、タウという3つの遺伝子を取り入れてつくったマウスですが、そのアミロイドβがたくさん溜まっている脳に、ホモシステイン酸の抗体(毒素を中和するもの)をつくって投与したところ、アミロイドβの量が激減したのです。

ホモシステイン酸は低濃度でアミロイドβをつくり、そのアミロイドβが蓄積されていくと、タウタンパク質が増えていくという仮説を立てたのですが、それだけでなく、ホモシステイン酸はアミロイドβがなくても高濃度で神経を殺すという作用があることがわかったのです。

アルツハイマー病のモデルマウスを使った記憶実験もおこないました。直径8メートルほどの円形の水槽にマウスを入れます。マウスは水槽中に隠された台座を見つけるために泳ぎ回りますが、台座にたどり着けるまでの時間は、試行錯誤することで実験を重ねるたびに短縮されます。その時間を測定することで、マウスの記憶を判定します。

アルツハイマー病のモデルマウスは完全に記憶障害が発生していますが、ワクチンおよび抗体を投与したマウスは、2か月齢のマウス(記憶障害が発生していないマウス)と同じように、記憶障害が回復していました。

腎臓病はアルツハイマー病の原因になる

アミロイド療法すなわちアミロイドβを減少させる療法は、アルツハイマー病のモデルマウスの実験ではすべて成功しているのに対して、人間の認知機能回復という点ではことごとく失敗に終わっています。それは、人間とマウスでは、アルツハイマー病の病理変化に違いがあるからです。

前出のように、アルツハイマー病のモデルマウスの病理発現にホモシステイン酸が関係していることを発見しました。今度は、そのホモシステイン酸が、果たして人間にも関係しているかどうかを確認することにしました。

 

ホモシステイン酸の記憶回復の臨床実験

順天堂大学病院で、アルツハイマー病と診断された110名の患者さんの尿を採取させてもらい、その尿中ホモシステイン酸濃度と認知機能障害の程度との関連性の調査観察を試みました。

その結果、尿中ホモシステイン酸濃度と認知機能障害の程度は、統計的に有意な正相関を示していることを発見したのです。すなわち、健常な人の場合、体内で有毒なホモシステイン酸がつくられると、それは尿中に積極的に排出されて、正常な機能を維持していることがわかりました。

しかし、アルツハイマー病の患者さんは腎機能が低下し、体内でつくられたホモシステイン酸が尿中に排出されずに体に蓄積し、それが脳の認知機能を障害することが理解できました。

つまり、尿中にホモシステイン酸が出れば出るほど正常で、出なければ認知症。これはマウスとはまったく逆の現象だったのです。

このことから、老化や喫煙、糖尿病やうつ病など、アルツハイマー病の危険因子である病気にかかると、そうでないアルツハイマー病の患者と比べて腎機能の低下がより強く発現し、その結果、アルツハイマー病が重症化することも理解できました。人間のアルツハイマー病には、腎機能が関係していたのです。

そのためアミロイド療法で脳内のアミロイドβの濃度を下げても、ホモシステイン酸の濃度が減少しなければ、認知機能が回復しないのは当然のことだったのです。

 

さて、アルツハイマー病には遺伝的要因による「家族性アルツハイマー病」と、遺伝とは関係のない「孤発性アルツハイマー病」があり、約9割が孤発性であることが知られています。カナダのあるグループが、その孤発性アルツハイマー病の発症が予想される人たちを追跡調査し、そのうち発症した人のデータを調べたところ、「アミロイドβが脳に沈着するより前に、血管性の異常が起きていた」ということを発見しました。すなわち、「血管の中に異常な物質ができて、それが認知症を起こす引き金になる」ということを発表したのです。

その異常な物質のひとつに、私たちが発見したホモシステイン酸が該当していることは、いうまでもありません。

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